目次
嫌なにおい、悪臭のことを「臭気」と言い、さまざまな原因によって生じます。
臭気によるトラブルや苦情が発生しやすい製造工場や食品工場、飲食店、畜産農業などの事業者では、問題が発生する前に現状を把握し、臭気対策を行うことが必要です。
臭気対策はなぜ必要? 臭気が引き起こす問題の具体例
製造工場や食品工場、飲食店、畜産農業事業者が事業活動を通して発生させる臭気は、様々な問題を引き起こします。問題が発生した場合はもちろん、未然に防ぐためにも効果的な臭気対策を行うことが必要です。
従業員の健康問題
臭気は従業員の健康にも影響を与えます。作業中のにおいによる不快感で集中力の低下やミスが起こるだけでなく、強い臭気で吐き気やめまいなどの体調不良を引き起こすこともあります。
また、においの強い作業環境だけでなく、家に帰っても身体や衣服についたにおいが取れず、家族の目が気になる、といったことも心理的ストレスにつながります。これらの臭気の問題は、従業員の早期離職を招く可能性があるでしょう。
近隣住民からの苦情
工場や飲食店などから外に漏れたにおいを近隣の住民が不快に思い、苦情やトラブルに発展することがあります。食事の時間帯のにおいや、外干しの洗濯物についてしまったにおいは特に不快に思われることが多いです。
近隣住民から自治体へ臭気についての苦情が入り、後述する悪臭防止法による検査や改善勧告が行われることもあります。
商品や入庫物へのにおい移り
事業場内の商品や倉庫内の入庫物へにおいが移ってしまうことで、利用できなくなることがあります。
においの強いものを倉庫に保管したあと、換気のみでにおいを低減するのは時間がかかります。におい移り防止のために他のものを入庫できなくなると、倉庫として利用できない期間が生じ、事業上の損失となってしまいます。
悪臭防止法とは?
臭気に関する問題は昔からあり、日本では昭和47年には「悪臭防止法」が施行され、規制が行われています。事業活動を通してにおいが発生している工場や事業場は、悪臭防止法を遵守するための臭気対策が必要です。
- 目的
悪臭防止法は、規制地域内の工場・事業場の事業活動に伴って発生する悪臭について必要な規制を行うこと等により生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することを目的とする。 -
特定悪臭物質及び臭気指数
排出規制の対象とするのは、次の特定悪臭物質及び臭気指数についてである。
[1] 特定悪臭物質とは、不快なにおいの原因となり、生活環境を損なうおそれのある物質であって政令で指定するもの。(現在22物質が指定されている。)
[2] 臭気指数とは、人間の嗅覚によってにおいの程度を数値化したもの。
引用:「悪臭防止法の概要」(環境省)
悪臭防止法を遵守しない場合、行政措置として市町村及び特別区の長による改善勧告が行われ、勧告に従わない場合は改善命令が、命令に違反した場合は罰金などの罰則が科せられます。
悪臭防止法の施行状況
環境省が令和4年度に行った調査の結果によると、全国の地方公共団体が受理した悪臭に係る苦情の件数は12,435件でした。
発生源別内訳を見ると、一番多いのは野外焼却(24.7%)ですが、製造工場(食料品 4.6%、その他 6.9%)や畜産農業(9.0%)、サービス業・その他(16.1%)など、工場や事業場から発生した悪臭に関する苦情件数も多いことがわかります。
苦情件数の発生源別内訳(令和4年度)
出典:「令和4年度悪臭防止法等施行状況調査について (概要) 」(環境省)
令和4年度の苦情件数のうち、悪臭防止法の規制地域内の工場・事業場への苦情は4,497件(全体の36.2%)であり、これに対して立入検査 944件、悪臭の測定 73件など、下表の件数の措置等が行われました。また、悪臭防止法に基づく措置のほかに、悪臭防止に関する行政指導が762件行われています。
悪臭防止法に基づく措置等の状況
出典:「令和4年度悪臭防止法等施行状況調査について (概要) 」(環境省)
工場や事業場では、上記のような自治体による措置が行われる事態となる前に、臭気対策を講じることが重要でしょう。
臭気対策はなぜ難しい?
目に見えず、感じ方にも特性や個人差がある「におい」は対策が難しいものです。臭気対策の難しいポイントをいくつかご紹介します。
においの感じ方の個人差
においの感じ方は人それぞれ異なり、年齢や性別、健康状態、慣れ、嗜好性などによっても影響されます。また、一般的には「いいにおい」とされているにおいであっても、その強さや継続時間、頻度によっては悪臭と感じられることもあるでしょう。
事業者内の人にとっては嗅ぎ慣れたにおいであっても、迷惑だと感じる人がいればその人にとっては「悪臭」であり、近隣トラブルや自治体への苦情につながることもあります。においの対策を適切に行うためには、人それぞれ感じ方が違うという前提を理解しておく必要があります。
においの感覚特性
においの強さと臭気物質濃度の関係は対数に比例しており、ウェーバー・フェヒナーの法則と呼ばれる次の式で表される関係となっています。
I=klog C+a
(I:においの強さ C:臭気物質の濃度 k,a:定数)
そのため、臭気を不快に感じる状況の場合、原因となっている臭気物質のほとんどを取り除かなければ、人間には臭気が減ったように感じられません。これが臭気対策を難しくしている大きな原因のひとつです。
また、におい物質が複数混合していると、様々な相互作用が起こることが多いです。個別では強く感じないにおいでも、混合することで強く感じられることがあります。
風などの影響で広範囲に影響することがある
臭気が風に運ばれて広範囲に拡散している場合、事業者の予想以上に遠くまで影響が出ていたり、発生源の特定が難しくなったりします。事業所と周辺住宅との位置関係や風向きも考慮して臭気対策を行う必要があります。
目に見えず、定量化が難しい
目に見えず、人によって感じ方が異なる「におい」は定量化が困難です。においを見える化、数値化する手法はありますが、実際のにおい問題に対して、これらの手法を専門家以外が正しく活用することは難しいものと考えられます。
臭気対策の基本的な実施フロー
においが発生している工場や飲食店で臭気対策を行う場合、基本的な実施フローは以下の通りです。
調査、原因究明
最初に行うのは現状把握です。においの種類や発生場所、時間帯や頻度を調査します。まずは事業所内外を歩き、自分の嗅覚で確認することが重要です。状況によっては臭気対策を専門に行う事業者に依頼し、詳細な調査・原因究明を行います。
改善策の検討、実施
すぐにできる対策で改善するケースも多くあります。
- 容器の密閉
- においのもとはすぐに片付ける
- 作業の方法や時間帯の見直し
- においの少ない原料への転換
- 排気フードや排出口の設置場所変更
などの改善策を検討、実施します。
食品を扱っている場合は、食品の保存・管理の方法が異臭の原因となっている場合もあります。
脱臭方法と装置の検討、設置
上記の改善策実施によって問題が解決しない場合、脱臭施工や脱臭装置の設置を検討します。
脱臭には多くの方法があり、水洗や活性炭による吸着などの「物理的方法」、イオン交換樹脂による科学吸着やオゾン酸化法による酸化分解などの「化学的方法」、ソイルフィルターによる土壌脱臭などの「生物的方法」、芳香剤による「感覚的方法」に分類されます。
しかし、それぞれの方法にメリット・デメリットがあり、業種や臭気発生源によって効果的な脱臭方式はある程度限られます。状況に適した脱臭方法を選択することが重要です。
アフターメンテナンス
脱臭装置を設置して終わり、ではなく定期的な効果測定と装置のアフターメンテナンスを実施し、臭気対策を継続します。
臭気を定量化、見える化する方法
臭気を定量化、可視化するために専門家が用いる手法は主に以下の3つです。
臭気濃度の測定、臭気指数の算出
臭気濃度とは、においのついた空気や水を無臭の空気(無臭の水)で薄めていき、人間の嗅覚で感じ取れなくなったときの希釈倍数のことです。もとのにおいを薄めていき、100倍に希釈した時ににおいを感じられなくなった場合、臭気濃度は100となります。
また、臭気指数は臭気濃度の常用対数に10を乗じた値です。
臭気指数 = 10 × Log(臭気濃度)
臭気濃度が100の時は、臭気指数は20です。臭気指数は悪臭防止法による排出規制の対象であり、においの種類によらず、個人差が少なく測定できるため規制に適した評価方法とされています。
臭気排出強度(OER)の測定
臭気排出強度(OER: Odor Emission Rate)も悪臭防止法の規制基準として用いられている指標で、排出ガスの臭気濃度および風量をもとに算出されます。
臭気排出強度(OER) = 臭気濃度 × 排気風量(m3/min)
排気口や煙突のそれぞれの臭気排出強度を算出・比較することで、「臭気が強いが排気風量は少なく、周辺への影響度が低かった」、「臭気は弱いが排出風量が多く、周辺に一番影響を与えていた」という実態を把握でき、対策の優先順位をつけやすくなります。
ニオイセンサーによる測定
ニオイセンサー(臭気測定器)は、臭気の強弱を簡易的に測定できる機器で、日常的な測定や消臭・脱臭前後の効果測定に便利です。しかし、悪臭防止法の遵守のためにはニオイセンサーで測った数値では不十分で、国家資格の「臭気判定士」による臭気指数(臭気濃度)の測定が必要です
臭気拡散シミュレーションによる可視化
環境省では、においの拡散をシミュレーションし、規制基準を算出するソフトが無料配布されています。このソフトで算出した結果と実際の状況を比較することで、規制基準への適合状況を判断することができます。
においシミュレーター(臭気指数規制第2号基準算定ソフト)(環境省)
さらに、「HYSIA」が提携しております、株式会社カルモアが独自開発した臭気拡散シミュレーションシステム「KaLmoS」(カルモス)では、においシミュレーターをはるかに超える精度と現実性で、規制基準値の算出だけでなく、悪臭苦情の回避・解決と無駄のない脱臭装置の設計を実現します。
※「KaLmoS」(カルモス)に関する利用可能な画像があれば挿入
「KaLmoS」(カルモス)を用いた臭気拡散シミュレーションについては、こちらからお問い合わせください。
臭気対策の依頼先の選び方
臭気対策の依頼先を選ぶ際は、状況に適した事業者を選択することが重要です。
次の表のように、臭気対策を請け負っている事業者の中でも、調査からアフターメンテナンスまで一貫しておこなえるところもあれば、一部のみを請け負うところもあります。
対策項目 | 当社サービス※ | 環境コンサルティング会社 | 測定・分析会社 | 装置メーカー | 施工会社 |
---|---|---|---|---|---|
目標設定 | ◯ | – | – | – | – |
臭気測定・分析・調査 | ◯ | ◯ | ◯ | – | – |
データ解析 | ◯ | ◯ | – | – | – |
脱臭装置の選定 | ◯ | – | – | – | △ |
脱臭装置の設計・製造 | ◯ | – | – | ◯ | △ |
デモテスト | ◯ | – | – | △ | – |
効果測定 | ◯ | – | ◯ | △ | – |
アフターメンテナンス | ◯ | – | – | – | – |
※当社サービスは、総合対策メーカーである株式会社カルモアとの提携によりご提供させていただいております
ダイナミック・サニートの環境衛生管理『HYSIA』ではすべての対策フローに一貫して対応し、臭気問題の根本解決にコミットしています。一般的にはまだイメージしにくい臭気対策の施工内容について、詳細かつ明瞭な提案書や見積書、作業報告書のご提供を心がけており、社内での稟議や報告にも役立つとご好評をいただいております。
臭気対策にかかる期間
専門の事業者に依頼した場合、臭気対策にかかる期間は現状把握から対策後の効果測定まですべて含めると1年〜1年半程度です。特に、装置の設計、製造まで行う場合、試運転などを含めるとその工程だけで3ヵ月〜半年程度の時間がかかります。
ダイナミック・サニートの環境衛生管理『HYSIA』のこだわりと他サービス紹介
他社との違いは、問題解決に取り組む姿勢です。過去の事例や一般論に捉われず、問題の中枢まで切り込み、普通ならお客様にお伝えしづらい部分まで突っ込み、根本解決にコミットいたします。全てのケースは少しずつ状況が違うため、本当の問題解決を行うためには、過去の事例に基づいた想定力と、先入観を排除してその現場特有の状況を理解する洞察力が必要です。 コンサルティング、監査、教育、定期管理サービスなど、各場面で必要とされているサポートを提供します。
HYSIAの他事例の紹介
日本国内、海外問わず、中小企業から大手のメーカーまであらゆる製造・物流施設での衛生リスク対策を行っています。昆虫や有害生物の問題、カビや食中毒菌などの微生物対策、ウイルス対策、臭気対策など、普段は気にしないけれども一度発生すると大きな安全問題やブランド棄損リスクにつながるような課題に専門的に取り組んでいます。
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